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修はなんとなく家に帰れずに宇治川のほとりでぼーっと座っていた。
特に何も考える気にもなれず、ただ川の流れを見つめていた。
宇治川は滋賀県から流れてくる川で、豊臣秀吉が堤防を作ったことで有名だった。
もう夜で川は黒い闇の中だった。
「もう・・・置いていかないで・・・私を一人にしないで・・・。」
声のする方を修は見た。
雪だった。
だが、死んだような虚ろな目とぼやっとした声でとても雪のそれとは思えない。足もふらふらしていて何処へ向かおうというのかが見当がつかない。
雪、と思いっきり声を張り上げてみたが、まるで聞こえていない様子だった。
「雪!雪!俺が分らないのか!?」
雪はやっと修に気づいたみたいでちらりと視線を向けたが、それきりまた虚ろな目に戻った。
修は雪の肩を掴んだ。
「おい!雪!気づいてるんだろ!?ここで何をしている!」
雪は修を押しのけようと必死に抵抗するが、やはり体育会系の男子の力にかなうはずも無く、空しく終わった。
「修・・・くん?私は一体何を・・・?」
雪はゆっくりと我に返りつつあったみたいだった。
「雪、大丈夫か!?」
修は少し安心した。雪の目の色も元に戻っている。
「駄目・・・修くん、私を放っておいて。私はあの人の所にいかなきゃいけないの。止めないで。」
昼間の雪とはまるで別人だ。
我を意識しつつ雪はわけの分らない事を言っている。しかも言葉がいつもより強い。
雪がまた歩き出したので、修はさっきのように肩を掴んで止めようとしたが、信じられないくらい強い力で振り切られた。
「雪!」
修の声は雪にはもう届いていない。
どぼんという鈍い音がした。
もう、手は届かない。
2009.05.04 | | Comments(0) | Trackback(0) | 第二章
「明日は早い、もう寝ろ。・・・そういえば、明日、京へ向けて出立するのか?だったら尚更なのだが。」
一瞬俺は迷った。
今日寝れば、明日朝起きたらもう現世へ帰っているのか?
また、修と雪と、学校で同じように生活することができるのか?
俺は、正直自信が無かった。
そんなに簡単に時を超えるのは不可能なのではないか。
でも、だからといっていつまでも戦国にいる気は更々無い。
元々戦国時代そのものが好きではなかったし、ましてや戦に巻き込まれて誰も知らない所で死ぬのは絶対に嫌だ。
でも、佐吉の言う義、というのも面白そうだった。
佐吉は商人だから、戦に出ることもないし、巻き込まれることも早々無いだろう。
「佐吉、俺は時代が違うから京に行っても何も懐かしがるものはないし、帰る所も無い。佐吉がいいというのなら、俺はここに居たい。」
「まぁ、俺じゃなくて和尚様がどうするか、だが、貴様のような者を見捨てるような御方では無い。好きなだけいればいい。その代わり、手伝えよ。」
分った。と俺は深く頷いた。
明日から、新しい事が沢山待っている。
いつか、現世へ帰れるときはきっと来る。
俺は現世の人間なのだから。
決してこちら側の人間と交わることができないのだから。
―この時、俺は佐吉と共にいくことを決めた。
2009.04.19 | | Comments(2) | Trackback(0) | 第二章
「よく、面白い言葉を使う。それが、貴様の言う時代の文化というものなのか?」
文化といえば文化なのかもしれないが、と俺は口ごもった。
自分の居た時代もよく考えるとそんなに文化とか気にしたことも無かった。
ただ時の流れに身を任せて、同じ様な毎日を繰り返していただけだったからかもしれない。
「佐吉は両親、いないのか?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
もし、戦国時代、寺で僧の手伝いをしながら生活しているというならば、もしかしたら、捨てられた所を和尚に拾われて・・・。
と俺は勝手に考えていたからだ。
「両親は居る。が、俺はまだ未熟だからな。兄上と修行中だ。妹は家に居る。」
意外とあっさりした答えが返ってきた。
でも、俺と同じくらいの歳で寺で修行なんていったら、結構凄いことなのかもしれない。
「兄上に貴様が四百年後から来た客だと言うことを話したら大層面白がっていたぞ。」
佐吉が付け加える。
佐吉の兄貴。会ってみたい気がする。妹にも、両親にも。
「父上は、いつも俺に近江商人になる者は義の心を忘れてはいけないと言う。絶対に客に迷惑を掛ける事が無いようにという事だ。」
義・・・という言葉は俺の心に深く刺さった。
それは、現世で無くしていたものだった。
小さい頃はよく正義のヒーローとかに憧れて変身の真似をしていた。
でも、大きくなるにつれて、生きるためには人を騙したりすることも必要だと考えるようになった。
そうしていくうちに、義なんてものはいつのまにか無くなっていた。
俺は、正義のヒーローに倒される怪物になっていたのだ。
佐吉・・・俺はもう一度、やり直せるだろうか。
2009.04.18 | | Comments(0) | Trackback(0) | 第二章
昼動いてないせいなのか分からなかったが、夜は異常に目が冴えて眠ることができなかった。
自分の居た現世のことが頭の中を駆け巡っては消えた。
家族のこと、学校のこと、クラスのこと、修のこと、そして雪のこと。
本当に戦国時代にタイムスリップしていたとしたら、あの現世での生活は嘘であり、夢であり、幻であり、元々あんな時代は無かったのか。
それとも戦国時代と現世は並行して時は進んでいるのだろうか・・・。
考えても答えが出ない問題が浮き出ては泡沫(うたかた)となり消えた。
もう自分が本物で本当に世界に存在しているのかも疑わしくなった。
気分転換にと、縁側へ腰掛け、星空が一面に広がる空を眺めた。
思えば、現世にこんなに綺麗な星空が出ているのは見たことが無かった。
テレビのドキュメンタリー番組位でしか見たことが無いような大空いっぱいの星が瞬いているのをあたまの中を真っ白にしてぼーっと見てると、自然と落ち着きが戻ってきた。
大丈夫、また眠れば帰れる。
そんな事を自分に言い聞かせた。
「なんだ、まだ起きていたのか。眠れないのか?」
いきなり声がして吃驚した。
声の主は佐吉だった。
まだ仕事をしているらしく、昼間の着物のままだった。
どうやら俺は客人として迎えられているらしく、早めに休ませて貰っていた。
佐吉は俺の隣に静かに腰を下ろした。
「俺の時代を思い出してた。まぁホームシックみたいなものだ。」
「ほーむしっく?」
ついついカタカナ語を使ってしまった。
佐吉は聞きなれない言葉に首を傾げたから、俺は慌てて自分の家に戻りたい。と訂正した。
2009.04.17 | | Comments(0) | Trackback(0) | 第二章
無い・・・無い・・・無い・・・
何処を探しても、何も手掛かりは無かった。
ただ夜の暗い闇がおちてきただけであった。
「こんなに熱心になってくれるなんて、ありがとう。でもね、気持ちだけでもう十分よ。もう、どんなに足掻いても帰ってこないから・・・。」
母親の言葉に修と雪は不思議に思った。
息子を探すのならば、母親はもっと死に物狂いになって探すのではないのか。
「ちょっと、諦めるには早いんじゃないですか!?」
雪は耐え切れず大声を張り上げた。
普段は比較的大人しい雪だけに、修も驚いた。母親は目を丸くしている。
「すいません・・・急に大声を出して。でも、実の息子さんを探すにしては、すこしあっさりしすぎていると思って、耐え切れずに・・・。」
雪はうつむいた。
その雪の肩を修はそっと手を掛ける。
「いいのよ、雪ちゃん。あなたの言うことは確かに正しい。本当の母親相手ならば、だけどね。」
母親も疲れたように汗を拭った。
その母親の意味有り気な言葉に修は身を乗り出した。
「実の母親ならば・・・という事は、本当の母親じゃないみたいじゃないですか。」
修は母親に詰め寄った。
「ごめんなさい。なんでもないわ。もう夜も遅くて親も心配してるでしょ?今日はほら、帰りましょ?」
無理矢理母親は明るい声を出して修と雪を強引に追い出した。
「なんか、小母さんの様子、変だったね・・・。でも、他の家庭事情に私達みたいな他所の人が入る所じゃないし・・・。どうする?修君。」
雪の声はすっかり疲れててか細かった。
「・・・しばらくそっとしておこう。きっと何か手掛かりがある筈だ。雪も、何かあったら教えてくれ。」
2009.04.16 | | Comments(0) | Trackback(0) | 第二章
Author:うみまる
歴史好き。
感想等あればコメントにてどーぞ。